2025年のラーメン店の倒産は59件で、4年ぶりに前年を下回った。数字だけなら明るい話に見えるが、行列のできる人気店でも、店主の高齢化や後継者不在によって閉店を選ばざるを得なくなることがある。倒産が減った背景にある後継者不足の実態と、店を引き継ぐ仕組みとしてのM&A(企業の合併・買収)の広がりを整理する。
- 2025年の倒産動向は4年ぶりの減少、ただしコスト高は続いている
- 後継者難という背景と、M&Aによる引き継ぎの増加
- M&Aによって変わること
- 店主が使える選択肢と公的な支援制度(個人の店と法人の店で異なる事業承継税制)
2025年の倒産動向、実は4年ぶりの減少
帝国データバンクの調査によると、2025年のラーメン店の倒産件数は59件で、前年(79件)から25.3%減少し、4年ぶりの前年割れとなった。倒産件数だけを見ると業界の状況が改善したようにも見えるが、背景には単純な経営改善だけではなく、経営が苦しくなった店が「倒産」という形を取る前に、他社に引き継がれるケースが増えているという事情がある。
コスト高という共通の圧迫要因
帝国データバンクが示す「ラーメン原価指数」(豚骨ベース、東京都区部)は、2020年平均を100とした場合に2025年は141となっており、ラーメンに使う原材料の値上がりが、店の経営を継続的に圧迫している。個人経営の店ほど、こうしたコスト増を価格に転嫁しきれず、経営の限界を迎えやすい状況にあるといえる。
後継者難という背景
ラーメン店を含む飲食業全体で、店主の高齢化と後継者不在は共通の課題になっている。長年修業を積んで独立するという伝統的なキャリアパスは、労働時間の長さや収入面の課題もあり、後継者を志す若い人材の確保が難しくなっている面がある。親族内に後を継ぐ人がいない場合、店主の引退がそのまま閉店に直結しやすいという構造上の問題が、業界全体の課題として指摘されている。
M&Aによる引き継ぎが増えている
後継者難やコスト高で経営に苦しむ中小のラーメン店を、大手ラーメンチェーンや外食企業、投資ファンドが買収し、DX化などの経営ノウハウを注入して再生させる動きが広がっている。買収する側にとっては、味やブランドといった無形の資産を持つ店を、ゼロから店舗を作るより効率的に獲得できるという狙いがある。買収された店の側にとっては、店を存続させながら、個人では対応しきれなかった経営面の課題を解決できるという利点がある。
M&Aによって変わること
| 項目 | 変化の傾向 |
|---|---|
| 厨房のシステム | セントラルキッチン化により、複数店舗で仕込みを標準化し、個々の店舗の負担を減らす |
| 決済方法 | キャッシュレス決済の導入が進み、レジ業務の効率化につながる |
| 人員体制 | 省人化を進め、少人数でも運営が回る体制に切り替える |
職人の技術による味づくりの部分は維持しながら、運営面は標準化・効率化するという役割分担が進んでおり、業界では「ラーメンコングロマリット」とも呼べるような、味の専門性と効率的な運営を切り分けた構造への集約が進んでいるとの見方もある。
店主が事業承継を考えるときの3つの選択肢
個人経営の店主が将来的な引退を見据える場合、主に3つの選択肢がある。
- 親族内承継:子や親族が店を引き継ぐ、従来型の方法
- 従業員承継:長年勤めた従業員に店を譲る方法
- 第三者承継(M&A):親族や従業員に後継者がいない場合に、社外の企業や個人に店を譲渡する方法
親族内・従業員承継の担い手が見つからない場合の選択肢として、第三者承継(M&A)の存在感が増している状況にある。
誰に継ぐかと同時に、店が個人事業か会社(法人)かを押さえておきたい。個人の店では店主が持つ土地や建物、設備を後継者に渡し、法人の店では会社の株式を渡すことになり、使える税制も分かれる。引き継ぎ方には、店主が亡くなって財産が移る相続と、元気なうちに譲る贈与の2通りがあり、後で触れる事業承継税制はどちらにも仕組みがある。
公的な支援制度、相談窓口と事業承継税制
個人経営の小規模な店であっても、事業承継を支援する公的な仕組みは整えられている。各都道府県には「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されており、後継者不在に悩む店主が無料で相談できる窓口になっている。また、一定の要件を満たせば、事業承継にともなう税負担を軽減する事業承継税制の対象になる場合もある(要件は国税庁のページで確認してほしい)。M&Aというと大企業同士の話に聞こえるかもしれないが、個人経営の飲食店を対象にしたマッチングサービスも増えており、思っているより身近な選択肢になりつつある。
事業承継税制は、店を引き継ぐときの相続税や贈与税の負担を軽くする特例で、個人事業主向けの個人版と会社向けの法人版に分かれる。どちらも期限があるので、使うかどうかは早めに決めておきたい。
個人事業主の店が対象になる個人版事業承継税制
国税庁のパンフレットでは、個人版の対象を「青色申告(正規の簿記の原則によるものに限ります。)に係る事業(不動産貸付事業等を除きます。)を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者」としている。見落としやすいのは、青色申告の中でも正規の簿記の原則によるものに限られている点だ。白色申告で済ませてきた店主は、この前提を満たさない。
期限は次のとおりで、相続の場合(国税庁タックスアンサーNo.4153)も贈与の場合(同No.4442)も同じ日付だ。
| 手続き | 期間 |
|---|---|
| 個人事業承継計画を都道府県知事に提出し、確認を受ける | 平成31年(2019年)4月1日から令和10年9月30日(2028年9月30日)まで |
| 特例の対象になる相続・贈与 | 平成31年(2019年)1月1日から令和10年12月31日(2028年12月31日)まで(10年間の特例) |
国税庁は、計画を提出して確認を受けた者に限ると明記している。
特例の対象になる「特定事業用資産」には、種類ごとに上限や条件がある。
| 資産の種類 | 上限・条件 |
|---|---|
| 宅地等 | 400平方メートルまで |
| 建物 | 床面積800平方メートルまで |
| それ以外の減価償却資産 | 固定資産税の課税対象となっているもの、自動車税・軽自動車税の営業用の税率が適用されるもの、一定の貨物運送用・乗用自動車、生物、特許権等の無形固定資産 |
相続の場合、これらは相続開始の前年分の青色申告書の貸借対照表に計上されていたものに限られる。
自分の土地に自分の建物を建てて営業してきた店主は、宅地等と建物の上限が直接関係してくるので、この制度を検討する意味が大きい。店舗を借りている店主には宅地等や建物の枠は関係がなく、帳簿に載った減価償却資産で条件に当たるものがあるかが検討の中心になる。
会社にしている店が対象になる法人版事業承継税制
店を会社として営業している場合は、後継者に引き継ぐのは会社の株式になる。法人版には「特例措置」と「一般措置」の2つがあり、猶予される範囲が大きく違う。
| 区分 | 対象と納税猶予割合 |
|---|---|
| 特例措置 | 全株式が対象で、納税猶予割合は100% |
| 一般措置 | 対象は総株式数の最大3分の2まで、相続の場合は80% |
手厚いのは特例措置だが、こちらには期限がある。国税庁タックスアンサーNo.4439では、特例承継計画の提出を平成30年(2018年)4月1日から令和9年9月30日(2027年9月30日)まで、特例の対象になる相続等・贈与を平成30年(2018年)1月1日から令和9年12月31日(2027年12月31日)までとしている。個人版より1年早く締め切られる。
計画の提出が先、承継はその後
個人版も法人版も、計画の提出期限(9月30日)が、相続・贈与の期限(12月31日)より3か月早く来る。年末に店を譲ろうと考えても、その時点で計画の期限は過ぎている。まず計画を出し、そのあとに贈与などの承継を実行する順で考えておくのが安全だ。
店主が最初に確かめておきたいこと
細かな要件に入る前に、次の順で確かめておくと、どの制度が関係しそうか見当がつく。
- 店が個人事業か会社(法人)かを確認する。個人なら個人版、法人なら法人版が検討の対象になる
- 個人事業なら、確定申告が正規の簿記の原則による青色申告になっているか、店の土地や建物、設備が貸借対照表に載っているかを確認する
- 計画の提出期限から逆算する。個人版は令和10年9月30日(2028年9月30日)、法人版の特例措置は令和9年9月30日(2027年9月30日)が計画の締め切りになる
- 税理士や事業承継・引継ぎ支援センターに相談し、自分の店で使えるか、使うべきかを判断する
1と2は、後継者が決まる前でも手元の書類で確かめられる。青色申告で帳簿を整えてきた店主ほど、制度を使える余地が残っている。
ここで紹介したのは国税庁の公表資料にもとづく制度の概要で、法的・税務上の助言ではない。自分の店で使えるかどうかは、税理士や税務署に確認してほしい。
廃業と承継、どちらを選ぶか
後継者が見つからない場合でも、必ずしもM&Aによる承継が唯一の答えというわけではない。設備を売却して静かに廃業する道を選ぶ店主もいれば、常連客との関係や味を残したいという思いから、時間をかけて承継先を探す店主もいる。どちらが正しいというものではなく、店主自身が何を優先したいかによって選択は変わってくる。
客から見て分かる変化
買収された店では、メニュー構成や価格、店内の雰囲気が少しずつ変わることがある。長年通っていた常連客にとっては違和感を覚える変化もあるかもしれないが、店そのものが存続し、味の根幹が引き継がれるという点では、閉店してしまうよりも良い結果につながっている面もある。
味は変わる?屋号は残る?買収された店をめぐる疑問
M&Aされた店は味が変わってしまうのですか?
一概には言えない。味づくりの部分は維持しつつ、運営面だけを効率化するケースが多いとされるが、店によって変化の程度は異なる。
なぜ倒産件数が減っているのに後継者不足が問題視されるのですか?
倒産という形を取る前に、他社への譲渡(M&A)によって店が存続するケースが増えているため。統計上の倒産件数の減少と、後継者不足という構造的な課題は別の問題として存在している。
個人店がM&Aされると、店名や屋号はどうなりますか?
ケースによる。屋号やブランドをそのまま残す場合もあれば、買収した企業のブランドに統合される場合もある。
事業承継を考えている店主はどこに相談すればよいですか?
M&A仲介会社や事業承継の専門家、商工会議所などの公的機関が相談窓口として挙げられる。
大手チェーンに買収されると、個人店ならではの魅力は失われますか?
運営の効率化が進む一方、味づくりの核となる部分は維持される場合が多いとされる。買収後の方針は企業やブランドごとに差がある。
個人事業主のラーメン店でも事業承継税制は使えますか?
個人事業主向けには個人版事業承継税制がある。国税庁の資料では、正規の簿記の原則による青色申告の事業者の後継者で、円滑化法の認定を受けた者を対象としており、白色申告の店主は前提を満たさない。個別の判断は税理士や税務署に確認してほしい。
事業承継税制の計画はいつまでに出せばよいですか?
個人版は個人事業承継計画を令和10年9月30日(2028年9月30日)までに都道府県知事に提出し、確認を受ける必要がある。対象になる相続・贈与は令和10年12月31日(2028年12月31日)まで。法人版の特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日(2027年9月30日)まで、対象になる相続等・贈与が令和9年12月31日(2027年12月31日)まで。
倒産の減少は、閉店の前に引き継ぎ手がつく店が増えたことの裏返し
2025年のラーメン店倒産件数は4年ぶりに減少したが、これは経営環境が好転したというより、後継者難やコスト高に苦しむ店をM&Aによって大手企業や投資ファンドが引き継ぐ動きが広がっていることの表れでもある。味づくりの専門性を維持しながら、運営面を標準化・効率化するという役割分担が進むことで、閉店ではなく存続という形で店の味が受け継がれるケースが増えている。
出典・参考情報
- 株式会社帝国データバンク「「ラーメン店」の倒産動向(2025年)」(2026年1月10日発表)。2025年の倒産件数59件(前年79件、25.3%減)、ラーメン原価指数(豚骨ベース、東京都区部、2020年平均=100)が2025年に141となった点を同社公式サイトで確認(確認日2026-10-03)
- 国税庁・タックスアンサー「No.4439 法人版事業承継税制(贈与税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4439.htm(令和8年4月1日現在法令等、確認日2026-10-27)
- 国税庁・タックスアンサー「No.4153 個人版事業承継税制(相続税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4153.htm(令和8年4月1日現在法令等、確認日2026-10-27)
- 国税庁・タックスアンサー「No.4442 個人版事業承継税制(贈与税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4442.htm(確認日2026-10-27)
- 国税庁・パンフレット「個人版事業承継税制」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm(確認日2026-10-27)
- 公式で確認できなかった事例は載せていません
開業の仕組みと、親族・従業員・第三者承継の違いも読む
出典
株式会社帝国データバンク「『ラーメン店』の倒産動向(2025年)」「『飲食店』の倒産動向(2025年)」を参考にした報道・プレスリリースをWebSearchで確認(確認日2026-09-12)
アイキャッチ画像: 編集部作成のイラスト