日本のラーメン店が海外に出るとき、価格は国内の相場をそのまま為替換算して決めるわけではない。現地の外食価格や、ラーメンを「特別な一食」として位置づける戦略を踏まえて設定される。逆輸入ブームで海外の食材やスタイルが日本に入ってくる流れとは逆向きの、日本の店が出ていく側の動きを、公的統計の数字と現地化・価格設定の考え方から追う。
- 農林水産省の統計で見る海外の日本食レストランの数と地域差
- 日本のラーメン店が海外に出るときの価格設定の考え方
- 一風堂のバー併設という現地化の工夫
- 直営とライセンス契約という展開方式の違い
- 出店エリアによる違いと、苦労しやすい点
広がる海外進出
大手チェーンを中心に、日本のラーメン店の海外出店は広がってきた。一風堂を運営する力の源ホールディングスの決算資料では、2025年3月期末の店舗数は296店(国内156店、海外140店、15の国・地域)とされている。海外140店は国内156店に迫る数で、ラーメン店が海外でも事業として店舗を重ねている一例になる。一蘭は、公式の会社概要で2026年6月時点の店舗数を93店(国内85店、海外8店)としている。米国では2016年10月にニューヨークのブルックリンに1号店を開業した(公式の沿革による)。同じラーメンの大手でも、海外店の比率は一風堂が約半分、一蘭が1割に満たず、海外への出方には大きな幅がある。
公的統計で見る海外の日本食店
ラーメン店だけの海外店舗数を国がまとめた統計は、確認できた範囲では見当たらなかった。近い数字として、農林水産省が外務省の調べをもとに隔年で集計している「海外における日本食レストランの概数」がある。対象は現地で「日本食レストラン」として扱われている店舗で、寿司や和食店などを含む日本食全体の数であり、ラーメン店だけの数ではない。数字はいずれも概数である。
| 調査年 | 海外の日本食レストラン(概数) |
|---|---|
| 2013年 | 約5.5万店 |
| 2015年 | 約8.9万店 |
| 2017年 | 約11.8万店 |
| 2019年 | 約15.6万店 |
| 2021年 | 約15.9万店 |
| 2023年 | 約18.7万店 |
| 2025年 | 約18.1万店 |
2013年の約5.5万店から2023年の約18.7万店まで、10年で3倍を超える数に増えた。ところが2025年は約18.1万店で、農林水産省の発表は「前回調査(令和5年)から約6,000店減少し、18万1千店」としている。2013年以降の推移で、前回を下回ったのはこの回が初めてである。
| 地域 | 2025年(概数) | 2023年からの変化 |
|---|---|---|
| アジア | 約112,400店 | 約1割減(2023年は約122,000店) |
| 北米 | 約29,400店 | 横ばい |
| 欧州 | 約19,200店 | 横ばい |
| 中南米 | 約15,300店 | 約2割増 |
| 大洋州 | 約2,800店 | 約1割増 |
| 中東 | 約1,600店 | 約2割増 |
| アフリカ | 約800店 | 約2割増 |
減ったのはアジアで、発表は「アジアでは、中国における経済停滞の影響等により、約1割(約9,600店)の減少」と説明している。アジアは減ってもなお約112,400店で、全体の6割を超える。北米と欧州は横ばい、中南米・中東・大洋州・アフリカは店舗数こそ少ないものの1〜2割増えた。全体の減少はアジアの落ち込みによるもので、地域ごとに見ると動きはそろっていない。
タイの調査で増えたのはラーメンと喫茶だけ
業種別の動きが分かる資料として、JETROが2026年1月に発表した「2025年度タイ国日本食レストラン調査」(調査期間は2025年8月15日〜10月31日)がある。タイの日本食レストランの総店舗数は5,781店舗で、前年比2.2%減(135店舗減)。2007年の調査開始以来、初めての減少だった。
業種別では総合和食が最も多く、寿司、ラーメン、居酒屋の順に続く。全体が減るなかで、報告書は「店舗数が増加したのはラーメン、喫茶のみ」としている。ラーメンと喫茶は、バンコク、バンコク近郊5県、その他の地方のいずれの地域でも増えた。タイのラーメン店の具体的な店舗数は、ここでは確認していない。日本食全体が縮んだ年にラーメンが店を増やしたという点は、海外の日本食をひとまとめに見ず、業態ごとに見る必要があることを示している。
価格設定、「ファストフード」ではなく「特別な一食」として
海外での価格設定は、日本国内とは異なる考え方で行われることが多い。海外の価格は日本国内の相場より高く設定される例があるが、個別の店の価格や海外店舗の売上規模は公式で確認できませんでした。以下は、現地の外食価格水準や、ラーメンを「特別な一食」として位置づける考え方を整理したものである。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 現地の外食相場に合わせる | 日本国内の価格をそのまま為替換算するのではなく、現地のレストラン価格帯を踏まえて設定する |
| 「ファストフード」という認識を外す | ラーメンを安価なファストフードとしてではなく、レストランの一品として打ち出す |
| 体験価値を加える | 店舗デザインや接客、待ち時間そのものを含めた体験として価格に反映させる |
一風堂の現地化戦略、バー併設という工夫
一風堂の海外店舗では、バーを併設して高級感を演出する店舗運営が知られている。ラーメンだけでなく、アルコールを含む飲食全体を楽しむ場として設計することで、客単価を上げつつ、現地の外食文化に合わせた店舗体験を作るねらいがある。
展開方式の違い、直営とライセンス契約
海外展開の方式には、企業が直接運営する直営店と、現地企業とのライセンス契約による展開の2つがある。現地の商習慣や規制、店舗物件の確保を現地企業に任せられる点がライセンス契約の利点として挙げられることがあるが、地域ごとにどちらが多いかを示す公的な資料は確認できなかった。一般論として、直営は味やサービスをそろえやすく、ライセンスは出店を速めやすい。どちらを選ぶかで、均質性と出店スピードのバランスが変わる。
現地化で変わること
海外出店にあたっては、味やメニューそのものにも現地向けの調整が入ることが多い。豚骨を使わないラーメンや、ハラール対応、ベジタリアン・ヴィーガン向けのスープを用意する店もあり、宗教上・食生活上の理由でラーメンを食べられなかった層に向けた商品開発にもつながっている。辛さの強さやスープの塩味を現地の味覚に合わせて調整するといった、細かな現地化もある。食材の調達は、現地で入手できる代替品を使う場合と、日本から輸入して味を維持する場合とに分かれ、店舗ごとの方針によって差が出る部分になっている。
出店エリアによる違い
出店先のエリアによって、現地化の方向性は変わりうる。日本食レストランの数で見ると、2025年はアジアが約112,400店と突出し、北米約29,400店、欧州約19,200店が続く。アジアでは日本のラーメンへの理解が比較的進んでいるとして、味の再現度を重視した展開が語られることがある。欧米では、前述の「特別な一食」としての価格づけやバー併設のような店舗体験の作り直しが語られることが多い。イスラム圏を意識する場合は、ハラールへの対応や豚骨を使わないスープの開発が検討事項になる。中東は約1,600店と規模は小さいが、2023年から約2割増えた地域でもある。ただし、こうした地域ごとの傾向を裏づける公的な調査は確認できておらず、ここでの整理は一般的な見方にとどまる。
海外出店で苦労しやすい点
現地スタッフの採用・教育、食材の輸入コストと鮮度管理、店舗物件の確保といった点は、海外出店の課題として挙げられることが多い。特に、日本の店舗で培った接客スタイルや調理の細かい手順を、言語や商習慣が異なる現地スタッフに伝える教育体制づくりは、直営・ライセンスいずれの方式でも欠かせない。加えて、統計の上では店舗数が伸び続ける時期は終わり、2025年はアジアを中心に日本食レストランの数が約6,000店減った。出店先の数が増え続けることを前提にしにくくなっている点も、これから出る店には考えどころになる。
逆輸入との違い
海外の食材やスタイルを日本のラーメンに取り入れる「逆輸入」の動きとは反対に、ここで扱っているのは日本の店が海外に出ていく側の視点になる。両者は方向が逆であり、海外で人気が出た日本発のラーメン文化が、形を変えてまた日本に戻ってくるという循環が起きている点は面白いところだ。逆輸入の具体的な動きは「海外で人気のラーメン、逆輸入トレンドから見える変化」で扱っている。
海外店の味と値段、大手以外の出店、ハラール対応
海外のラーメン店は日本と同じ味ですか?
店やブランドによって差がある。現地の味覚や食材事情に合わせて調整されている場合が多く、日本と全く同じ味とは限らない。
なぜ海外のラーメンは日本より高いのですか?
現地の外食相場や、ラーメンを体験価値のある一食として位置づける考え方が背景にある。単純な為替換算ではなく、現地の価格水準に合わせて設定されることが多い。
海外に出店するのは大手チェーンだけですか?
公表資料で店舗数が分かるのは、一風堂や一蘭のような大手チェーンが中心である。個人経営の店がどれだけ海外に出ているかを示す統計は確認できなかった。
ハラール対応のラーメン店は増えていますか?
ハラール対応のラーメン店の数を示す統計は確認できなかった。豚骨を使わないスープなど、イスラム圏の客を意識したメニューを用意する店はある。
海外の日本食店は増え続けているのですか?
農林水産省の集計では、2013年の約5.5万店から2023年の約18.7万店まで増えたが、2025年は約18.1万店と約6,000店減った。アジアが約1割減った一方、中南米・中東・アフリカは約2割増えている。これは日本食レストラン全体の数で、ラーメン店だけの数ではない。
海外店の味は日本に逆輸入されることがありますか?
海外で生まれたアレンジやメニューが、日本の店に取り入れられることもある。ここで扱った「出ていく側」とは逆方向の動きとして起きている。
国内価格の換算ではなく、市場に合わせた再設計
日本のラーメン店の海外進出は、一風堂の296店(国内156店・海外140店、15の国・地域、2025年3月期末)や、2016年10月に開業した一蘭のニューヨーク ブルックリン店に見られるように広がってきた。海外の日本食レストラン全体は2023年の約18.7万店から2025年の約18.1万店へと減ったが、タイの調査では全体が2.2%減るなかでラーメンは店を増やした。価格設定は日本国内の相場をそのまま持ち込むのではなく、現地の外食価格や「特別な一食」としての位置づけを踏まえて決められ、店舗デザインやメニューの現地化も含めて、市場に合わせた再設計が求められる。
出典・参考情報
- 一風堂の店舗数:力の源ホールディングス決算補足資料(2025年3月期)。一蘭の店舗数・沿革:一蘭公式 会社概要、沿革(いずれも確認日2026-09-26、ブルックリン店の2016年10月開業は2026-10-03に沿革で再確認)。海外売上比率・価格・売上は公式で確認できず削除
- 2026-09-12時点で参照していた報道(一風堂の海外事業展開、一蘭のニューヨーク出店「計画」の報道)は、店舗数と出店時期が上記の公式資料と食い違うため使用を取りやめ、公式資料に一本化(確認日2026-10-03)
- [S1] 農林水産省 輸出・国際局「海外における日本食レストランの概数」:資料PDF、プレスリリース(公表2025年11月28日、外務省調べに基づき農林水産省が集計、確認日2026-10-28)
- [S2] JETRO「2025年度タイ国日本食レストラン調査」:調査報告PDF(公表2026年1月、調査期間2025年8月15日〜10月31日、確認日2026-10-28)
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アイキャッチ画像: 編集部作成のイラスト