台湾に「台湾ラーメン」という料理はない。台湾ラーメンも台湾まぜそばも名古屋で生まれたメニューで、前者は台湾出身の主人が営む中国台湾料理店「味仙」、後者はラーメン店「麺屋はなび」が始まりだ。生まれた時期は40年近く離れているのに、どちらも店の裏側の食事やもったいない精神から出てきたという共通点がある。2つの成り立ちと、汁の有無から麺の作り方、食べられる場所までの違いを並べてみる。
- 台湾ラーメンは1970年前後に名古屋・今池の「味仙」で、従業員のまかないから生まれた
- 台湾まぜそばは名古屋の「麺屋はなび」で、捨てるはずだったミンチから生まれた(2008年と報じられている)
- 台湾ラーメンは鶏ガラスープの汁あり、台湾まぜそばは極太麺に粘りを出した汁なし
- 味仙は通販、麺屋はなびは都内にも店があり、名古屋に行かなくても食べられる
台湾ラーメンは1970年前後、味仙のまかないから生まれた
台湾ラーメンの元祖は、名古屋市千種区今池の「味仙」だ。中日新聞の2000年3月16日の記事によると、主人の郭明優さんが台湾で小皿に盛って食べる麺を激辛にアレンジして出したのが最初で、それが記事の時点で「30年ほど前」のことだった。1999年の名古屋観光コンベンションビューローの冊子「Convention NAGOYA」も同じく30年ほど前としており、誕生は1970年前後になる。
同じ冊子には、三代目の郭幸治さんの話が載っている。最初は従業員のまかない用で、それを常連客に頼まれてメニューに加えた。名前は「台湾人が作ったから台湾ラーメンでいいか」と軽い気持ちでつけたという。名古屋めしの代表格になった料理の名前が、大きな狙いもなく決まったところに、むしろ親しみを感じる。
中日新聞の記事が挙げる標準的なスタイルは、麺の上にいためたひき肉とニラがどっさり乗り、スープは鶏ガラ、唐辛子がたっぷりというものだ。ただし店によって差があり、スープを醤油ベースと説明する店もある。「台湾ラーメン=醤油ラーメンの辛いもの」と決めつけず、店ごとの作りの違いとして見ておくほうが実態に近い。
ヒントになった担仔麺と、台湾に同じ料理がない理由
味仙の台湾ラーメンのベースになったのは、台湾の担仔麺(タンツーメン)だ。「Convention NAGOYA」は、担仔麺をベースに辛く味付けしたのがルーツだと書いている。担仔麺の店としては、台南の老舗「度小月」が「正宗創始百年老店」を名乗っており、味の要は四代にわたって伝わる秘方の肉燥(肉そぼろ)だと説明している。
台湾に似た麺はあっても、同じ激辛ラーメンは存在しない。台湾ラーメンという名前は、作った人が台湾出身だったことから来ているだけで、台湾の料理名ではない。
名古屋で広まったのは80年代後半の激辛ブームから
台湾ラーメンが一気に広まったのは、80年代後半の激辛ブームのころだ。味仙で修行した人や、味仙の味にヒントを得た人が「台湾ラーメン」の店を次々に開き、名古屋では「激辛ラーメン=台湾ラーメン」という図式が定着した。
2000年の中日新聞の記事には、当時の県中華料理環境衛生同業組合の数字として、名古屋市内に約380あるとされるラーメン専門店のうち、200店以上が台湾ラーメンを出していると書かれている。半数を超える店が同じメニューを置いていたことになる。組合の牧野光朗さんは、名古屋の人は八丁みそやたまりなど濃い味が好きなので、辛い台湾ラーメンも違和感なく受け入れたのではないかと分析している。
同じ記事で、郭明優さんの妻の美英さんは、台湾ラーメンは「スープと辛味の程良いバランスが命」と話している。辛さの強さばかりが話題になりがちな料理だが、作り手の側はスープとの釣り合いを見ていたわけで、食べるときもその視点を持っておくと味わい方が変わりそうだ。
台湾まぜそばは麺屋はなびで、捨てるはずのミンチから生まれた
台湾まぜそばの発祥は、名古屋の麺屋はなび高畑本店だ。麺屋はなびの公式サイトによると、新山直人氏が新しいメニューを開発中に、ひき肉をラーメンに入れようとしたところ当時のスープに合わなかった。捨てようとしたところ、当時のスタッフが「もったいない」と言ってスープの入っていない麺にミンチをかけたらうまかった。そこから台湾まぜそばが始まったという。
誕生年は公式サイトに記載がないが、マイナビニュースの2017年4月21日の記事は2008年と報じている。オープン間もない麺屋はなびが新メニューとして売り出したもので、同じ記事は味仙の台湾ラーメンが元ネタだとしている。台湾ラーメンの誕生から数えると、40年近く後に生まれたことになる。
台湾まぜそばの麺が粘るのは、湯切りせずに傷をつけるから
麺屋はなびの公式サイトは、台湾まぜそばを、台湾ミンチを極太麺に乗せた汁無し麺の一種と説明している。台湾ミンチは唐辛子とニンニクを効かせた醤油味のピリ辛ミンチだ。代表的な具は、台湾ミンチ、生の刻んだニラとネギ、魚粉、卵黄で、好みでおろしニンニクを入れてよくかき混ぜて食べる。公式のおすすめもにんにくのトッピングだ。
特徴的なのは麺の扱い方だ。スープがないと通常の麺では具が絡みにくいため、湯切りをせずに麺棒でかきまぜ、麺に傷をつけて粘りを出している。粘りが出ると甘みも増すという。汁なし麺は「スープを抜いた麺料理」と思われがちだが、具を絡ませるために麺の仕上げ方から変えている。食べる側が混ぜるだけでなく、厨房でも先に一手間かけているわけだ。
誕生時期・発祥の店・スープ・具・食べ方の違い
| 項目 | 台湾ラーメン | 台湾まぜそば |
|---|---|---|
| 誕生時期 | 1970年前後(1999年・2000年の記事で「30年ほど前」) | 2008年と報じられている(公式に記載なし) |
| 発祥の店 | 味仙(名古屋市千種区今池) | 麺屋はなび 高畑本店(名古屋) |
| 始まり | 従業員のまかない | 捨てるはずだったミンチをスタッフが麺にかけた |
| スープ | 汁あり。標準的には鶏ガラ(店によって違い、醤油ベースと説明する店もある) | 汁なし |
| 代表的な具 | いためたひき肉、ニラ、たっぷりの唐辛子 | 台湾ミンチ、生のニラとネギ、魚粉、卵黄 |
| 食べ方 | 鶏ガラスープの麺(標準的なスタイル) | 極太麺と具をよくかき混ぜる。好みでおろしニンニク |
いちばん大きな違いはスープの有無だが、表にすると具の組み立てもかなり違う。台湾まぜそばは台湾ラーメンを元ネタにしながら、卵黄や魚粉、粘りを出した極太麺で別の一杯に仕立てているように見える。
台湾まぜそばはよくかき混ぜ、ご飯ものも合わせて
麺屋はなびの公式サイトは、台湾ミンチ、ニラ・ネギ、魚粉、卵黄を極太麺とよくかき混ぜて食べる、好みでおろしニンニクを入れる、と説明している。同じ公式サイトは、サイドメニューのご飯ものも見逃せないと書く。筆者なら、麺を食べ終えた丼に残ったミンチとご飯を合わせてみたい。もったいないから生まれた料理には、そういう締め方が似合う気がする。
どちらから試すか、辛さが苦手な人の選び方
辛い麺が好きで、スープまで味わいたい人には台湾ラーメンが向く。唐辛子の辛さがスープに出るので、刺激をまっすぐ受け止めることになる。一方、卵黄や魚粉のまろやかさがほしい人、こってりした汁なし麺が好きな人には台湾まぜそばが合う。初めてなら、元祖である台湾ラーメンを先に食べてから台湾まぜそばに進むと、どこを受け継ぎ、どこを変えたのかが分かりやすい。
辛さが苦手な人は、まず辛さを抑えたメニューがあるかを確かめたい。マイナビニュースの2017年の記事によると、麺屋はなびは当時「辛くない台湾まぜそば」を売り出している。発祥の店自身が辛くない版を出したことからも、台湾まぜそばの魅力は辛さだけではないことがうかがえる。にんにくや魚粉の風味と卵黄の絡んだ麺だけでも、十分に楽しめる料理なのだと思う。
家や都内で台湾ラーメン・台湾まぜそばを食べる方法
味仙の今池本店は公式サイトで通信販売をしている。台湾ラーメンは生めん2食入りに特製ミンチ(150g×2袋)が付いて1,850円(税込)だ。今池本店では全メニューのテイクアウトもできる。
麺屋はなびは名古屋の店だけでなく、公式の店舗一覧に南新宿店と神田東口店が載っており、都内でも発祥の店の台湾まぜそばを食べられる。海外にもクアラルンプールやソウル、ロサンゼルスなどの店がある。
出前で済ませたいなら、デリバリーのデリズにも台湾系の麺がある。「名台麺房 まぜ火」は汁なし台湾麺1,190円、台湾ラーメン1,090円(いずれも税込)で、台湾ラーメンは醤油ベースのスープと説明している。「台湾まぜそば源流」は台湾まぜそば(麺230g)が1,240円(税込)で、ピリ辛ミンチ、ネギ、ニラ、卵黄が乗る。届け先の店舗によって取扱いが違うので、注文前に確かめたい。詳しくはデリズで頼めるラーメンにまとめている。
台湾で食べられるか、辛くない版、名前の由来、汁なし担々麺との関係
台湾ラーメンは台湾で食べられますか?
台湾には台湾ラーメンと呼ばれる料理も、同じ激辛ラーメンもない。名古屋の味仙で生まれ、名古屋で広まったメニューだ。
なぜ「台湾」ラーメンという名前なのですか?
味仙の主人の郭明優さんが台湾出身だったからだ。三代目の郭幸治さんは、「台湾人が作ったから台湾ラーメンでいいか」と軽い気持ちでつけたと話している。
「担仔麺」と台湾ラーメンは同じものですか?
別の料理だ。台湾ラーメンは台湾の担仔麺をベースに、名古屋の味仙が辛く味付けしたのが始まりで、担仔麺そのものではない。
台湾まぜそばは辛くないバージョンもありますか?
発祥の麺屋はなびが「辛くない台湾まぜそば」を売り出したことがある(マイナビニュース2017年4月21日の記事)。今の取扱いは店ごとに違うので、注文前に確かめるのが確実だ。
台湾ラーメンのスープは醤油味ですか?
2000年の中日新聞の記事が挙げる標準的なスタイルでは、スープは鶏ガラだ。店によって差があり、醤油ベースのスープと説明する店もある。
名古屋に行かずに食べられますか?
味仙は台湾ラーメンの通信販売をしており、麺屋はなびは都内に南新宿店と神田東口店がある。デリバリーのデリズでも、台湾ラーメンや台湾まぜそばを頼める地域がある。
台湾まぜそばと汁なし担々麺は同じジャンルですか?
汁なしという形は共通するが、別のメニューだ。台湾まぜそばは名古屋の麺屋はなびで生まれ、台湾ミンチ、魚粉、卵黄を極太麺と混ぜる組み立てが軸になっている。
汁ありの味仙、汁なしのはなび、どちらも店の内側から生まれた名古屋の麺
台湾ラーメンは1970年前後に味仙のまかないから生まれ、80年代後半の激辛ブームで名古屋市内各地に広まった。台湾まぜそばはその台湾ラーメンを元ネタに、麺屋はなびで捨てるはずのミンチから生まれた。鶏ガラスープで辛さを味わう汁ありと、粘りを出した極太麺に卵黄と魚粉を混ぜる汁なし。同じ名古屋の辛い麺でも、作りはかなり違う。辛さの好みと、スープを飲みたいか混ぜて食べたいかで選ぶと、自分に合う一杯が見つけやすい。
台湾ラーメン・台湾まぜそばの由来と価格の出典
- 味仙 今池本店 公式サイト「元祖台湾ラーメン」 https://www.misen.ne.jp/ramen/ (2026年10月25日確認)。同ページが許可を得て転載している中日新聞 2000年3月16日 県内総合市21面の記事と、Convention NAGOYA 名古屋食文化考8 1999年4月 64号(財団法人名古屋観光コンベンションビューロー)を含む
- 味仙 今池本店 公式サイト トップ(店舗情報・通信販売) https://www.misen.ne.jp/ (2026年10月25日確認)
- 麺屋はなび 公式サイト トップ(台湾まぜそばとは?・店舗一覧)、運営 株式会社新山オールスターズ https://www.menya-hanabi.com/ (2026年10月25日確認)
- 麺屋はなび 公式サイト「台湾まぜそばとは」 https://www.menya-hanabi.com/taiwanmazesoba (2026年10月25日確認)
- マイナビニュース 2017年4月21日 辛くない台湾まぜそばの記事 https://news.mynavi.jp/article/20170421-taiwan/ (2026年10月25日確認)
- 正宗度小月擔仔麵 公式サイト https://www.noodle1895.com/ (2026年10月25日確認)
- デリズ 公式サイト 名台麺房 まぜ火 https://www.delis.co.jp/products/list?maker=178 、台湾まぜそば源流 https://www.delis.co.jp/products/list?maker=3 (価格は税込、2026年10月25日確認)
アイキャッチ画像: 台湾まぜそばの一般的な例を生成AIで作成したイメージ画像(特定の店の料理ではありません)
まぜそば、油そば、辛麺の記事へ
まぜそばや名古屋発祥のメニューに関する記事です。