お店選び・利用ガイド

外国人観光客への対応、多言語メニューが広がる背景

ラーメン店の券売機に英語や韓国語の表記が添えられ、写真つきのメニューが壁に貼られる。こうした多言語メニューが広がった背景には、2025年まで続いた訪日客の増加がある。日本政府観光局(JNTO)の確定値では2025年の訪日外客数は42,683,301人で、年間の過去最高を更新した。一方で2026年は1月から8月の累計が前年同期を下回っており、「増え続けている」とひとくくりにはできない。この記事では公的な統計と調査をもとに、多言語メニューがなぜ必要とされ、いまどこに課題が残っているのかを整理する。

この記事のポイント

  • 観光庁の2025年年次報告書で、訪日客が最も満足した飲食はラーメンが19.7%で2位(1位は肉料理32.5%)
  • 2025年の訪日外客数は42,683,301人(JNTO確定値)で過去最高。2026年1月から8月の累計は前年同期比2.7%減(推計値)
  • 観光庁の令和7年度アンケートでは、言葉が通じずに困った人の38%、多言語表示で困った人の24%が、困った場所に飲食店を挙げた
  • 飲食店のアレルギー表示は法律上の義務ではなく、店の自主的な情報提供にあたる
  • 東京都には無料で12言語のメニューを作れる仕組みと、多言語対応の経費を補助する制度がある

訪日客が最も満足した飲食の2位がラーメン

ラーメン店にとって多言語メニューが他人事でない理由は、まずこの数字にある。観光庁「インバウンド消費動向調査」の2025年年次報告書によると、訪日外国人が「最も満足した飲食」は肉料理が32.5%、ラーメンが19.7%、寿司が13.7%の順だった。およそ5人に1人が、日本で食べたものの中でラーメンをいちばんに挙げていることになる。ラーメンを選んだ人の満足理由では「美味しい」が95.5%を占めた。

同じ報告書では、日本滞在中に「日本食を食べること」をした人が98.2%にのぼり、次回の訪日でしたいことでも「日本食を食べること」が70.7%で最も高い。日本食を食べた人のうち「満足した」と答えた人は95.2%だった。

お金の面でも飲食の比重は小さくない。2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円(同報告書)で、費目別では宿泊費36.6%、買物代27.0%に次いで飲食費が21.9%を占める。一般客1人当たりの旅行支出228,782円のうち飲食費は50,221円である。国・地域別の1人当たり飲食費には開きがあり、韓国28,660円、台湾40,169円、中国51,581円、米国69,616円、英国82,108円、オーストラリア84,325円となっている。この並びでは、近隣の国・地域から来る人ほど食事にかける額が小さく、遠方から来る人ほど大きい。

2025年は過去最高、2026年は前年を下回って推移

JNTOの確定値では、2025年の訪日外客数は42,683,301人で前年比15.8%増だった。2024年の36,870,148人を上回り、初めて4,000万人台に乗った。

ただし2026年は様子が違う。JNTOが2026年9月16日に公表した8月推計値では、8月の訪日外客数は3,098,900人で前年同月比9.6%減、1月から8月の累計は27,626,300人で前年同期比2.7%減となった。2026年の数字は推計値で、後に公表される暫定値や確定値で変わることがある。

国・地域 2025年(確定値) 2025年の前年比 2026年1月から8月累計(推計値) 累計の前年同期比
総数 42,683,301人 15.8%増 27,626,300人 2.7%減
韓国 9,459,711人 7.3%増 7,420,300人 21.2%増
中国 9,095,931人 30.3%増 2,904,600人 56.7%減
台湾 6,763,424人 11.9%増 5,402,000人 19.8%増
米国 3,306,820人 21.4%増 2,305,300人 6.1%増
香港 2,517,399人 6.2%減 1,818,300人 8.7%増

表から読み取れるのは、全体が減った2026年も、減ったのは主に中国で、韓国、台湾、米国、香港は前年同期を上回っているという点だ。2025年は韓国、中国、台湾の3つを合計すると約2,532万人で、全体の約59%にあたる(当サイトの計算)。2026年1月から8月の累計では韓国、台湾、中国の順に入れ替わっている。

店が用意する言語を考えるなら、人数の多い順は韓国語、中国語(中国向けの簡体字と台湾・香港向けの繁体字)、英語となる。英語圏の米国は2025年で4位、オーストラリアは1,058,396人だった。どの言語のメニューを置く店が多いかを示す公的な統計は確認できていないため、ここで言えるのは来ている人の内訳までである。

言葉で困った場所の1位は飲食店

言葉の壁がどこに残っているかは、観光庁の調査に表れている。令和7年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」は、2025年11月から12月に5つの空港で出国前の旅行者に対面で聞いたもので、回収は4,110件だった(令和8年4月公表)。

旅行中に困ったこと(複数回答) 回答者全体に占める割合 困った人のうち、場所に飲食店を挙げた割合
ごみ箱の少なさ 17.2% -
施設等のスタッフとのコミュニケーション 15.4% 38%で1位
観光地や地域の混雑 12.9% -
交通機関の利用 11.3% -
多言語表示の少なさ・わかりにくさ 10.9% 24%で鉄道駅構内と同率1位
クレジット/デビットカードの利用 10.7% 32%で1位
困ったことはなかった 43.7% -

右の列は読み違えやすい。38%や24%は回答者全体に対する割合ではなく、その項目で「困った」と答えた人の中で、困った場所に飲食店を挙げた人の割合である。スタッフとのコミュニケーションで困った人(634人)のうち38%が飲食店を挙げ、次いで鉄道駅・バスターミナルが27%、その他小売店が22%だった。多言語表示で困った人(446人)では、鉄道駅構内と飲食店がともに24%で最も高い。

都市部だけを訪れた人でも地方部だけを訪れた人でも、コミュニケーションで困った場所の1位は飲食店(いずれも36%)だった。飲食店での言葉の壁は大都市に限った話ではない。

年ごとの動きも見ておきたい。スタッフとのコミュニケーションで困った人は令和5年度の22.5%から令和6年度に15.2%へ下がり、令和7年度は15.4%と横ばいだった。多言語表示も13.4%、10.8%、10.9%と同じ動きをしている。改善が進んだあと足踏みしている形で、「困ったことはなかった」は令和6年度の51.1%から43.7%に下がった。

多言語メニューの中身と、対応の4つの段階

多言語メニューは、日本語が読めない人に料理の内容と値段と頼み方を伝えるための表示や仕組みを指す。英語を一行添えるだけのものから、写真やピクトグラム(絵記号)、スマートフォンで読み込む翻訳表示まで幅がある。

ラーメンは券売機での先払いという独自の仕組みを持つため、注文の方式そのものが初めての人には分かりにくい。言葉の表記に加えて、写真つきのボタンや番号での注文といった工夫が併用されるのはこのためである。

下の表は公的な分類ではなく、店頭で見かける対応を当サイトが段階ごとに整理したものである。店を選ぶときや自店の現状を点検するときの目安として見てほしい。

段階(当サイトの整理) 主な内容 利用する人から見た目印
表示のみ 券売機のボタンや壁の品書きに外国語の表記を添える 券売機や入口の外国語表記
写真・記号の併用 写真やピクトグラムで料理と食材を見せる 写真つきのメニュー、食材の絵記号
デジタルの併用 QRコードやタブレットで外国語のメニューを表示する 卓上や店頭のQRコードの案内
接客まで含む対応 注文や会計で使う外国語のフレーズを用意して応対する 指差しで使える会話シートなど

アンケートでも「多言語表示」と「スタッフとのコミュニケーション」は別の項目になっている。表示を整えることと口頭のやり取りを補うことは別の課題であり、困った人の割合は後者のほうが高い。

ハラールやベジタリアンへの対応、キャッシュレス決済は、多言語メニューとは目的が違う取り組みである。前者は食べられない食材を確かめたい人への配慮で、後者は支払い方法の話だ。支払いについてはラーメン店のキャッシュレス対応事情で扱っている。

アレルギー表示は義務ではなく、店の自主的な情報提供

多言語メニューに卵や小麦、乳などの表示を添える店がある。これは法律で求められているものではない。消費者庁「食品表示基準について」の別添「アレルゲンを含む食品に関する表示」は、表示義務の対象を容器包装に入れた加工食品等とし、容器包装に入れないで販売する場合や外食産業の事業者が販売する食品には特定原材料の表示義務を課していない。そのうえで、メニュー等を通じた自主的な情報提供を進めることが望ましいとしている。消費者庁の消費者向けパンフレット「食品の表示 知っておきたい」(令和7年4月版)にも「外食や中食などの飲食店等については、食物アレルギーの情報提供は義務付けられていません」と書かれている。

利用する側にとっては、メニューにアレルギーの表示がないことは「含まれていない」という意味にならない点が大事である。表示の有無も内容も店ごとに違うため、食べられない食材がある人は注文の前に店へ直接確かめたい。豚骨や豚肉、みりんや酒といったアルコールを含む調味料など、宗教上の理由で確認したい項目も同じである。

店の側では、消費者庁が「外食・中食での食物アレルギーについて」のページで事業者向けのパンフレット(令和8年7月)や動画教材を公開している。なお、この節は制度の概要を紹介するもので、医学的な診断や法的な助言ではない。体質や症状については医師に、表示の扱いについては消費者庁や保健所などの案内に当たってほしい。

東京都の無料サービスと補助金

12言語のメニューを無料で作れるEAT東京

東京都の2025年2月の案内によると、都内の飲食店向けに「EAT東京」という多言語メニュー作成支援ウェブサイトが無料で提供されている。日本語のメニューを選ぶだけで12言語に翻訳でき、宗教やアレルギーなどで食べられないものがある人に向けた食品ピクトグラム、接客でよく使うフレーズを12言語でまとめたコミュニケーションシート、料理名の翻訳を試せるツールも用意されている。作ったメニューは、東京都が運営する外国人旅行者向けの飲食店検索サイトと観光案内用のデジタルサイネージに無料で掲載される。主催は東京都である。

ここに書いたのは2025年2月時点の案内の内容なので、利用できる条件や現在の機能はEAT東京のサイトで確かめてほしい。

多言語対応は経費の3分の2以内を補助

公益財団法人東京観光財団の「インバウンド対応力強化支援事業補助金」(令和8年度)は、都内の宿泊施設や飲食店、小売店などを対象にしている。飲食店と小売店は中小企業者に限られる。対象事業には多言語対応(施設の利用案内、マナー啓発、ホームページの多言語化等)のほか、外国人用グルメサイトへの登録・掲載、キャッシュレス機器の導入などがある。

補助額は補助対象経費の2分の1以内で、多言語対応に係る事業は3分の2以内である。上限は1店舗あたり300万円。募集期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日まで(当日消印有効)となっている。交付決定のあとに始める事業が対象で、先に購入や設置を済ませたものは対象にならない。

対象になる経費や要件には細かな定めがあり、手引きは年度の途中でも改訂されている(財団のページには令和8年9月1日改訂の記載がある)。申請を考えるなら、申請前に最新の手引きで確認を。

訪日客の動き、対応言語、アレルギー、費用の疑問

訪日客はいまも増えているのか。

2025年は42,683,301人(JNTO確定値)で過去最高だった。2026年は1月から8月の累計が27,626,300人で前年同期比2.7%減(推計値)となっている。中国が56.7%減った一方、韓国や台湾は約2割増えている。

どの言語に対応するのがよいのか。

2025年の訪日外客数は韓国、中国、台湾、米国、香港の順に多い。人数から考えれば韓国語、中国語(簡体字と繁体字)、英語が候補になる。言語別の対応状況を示す公的な統計は確認できていないので、自店に来る客の内訳に合わせて決めたい。

訪日客は飲食店でどのくらい言葉に困っているのか。

観光庁の令和7年度アンケートでは、スタッフとのコミュニケーションで困った人は回答者全体の15.4%だった。そのうち38%が困った場所に飲食店を挙げ、場所別で最も多い。38%は回答者全体に対する割合ではない。

飲食店のメニューにアレルギー表示は義務づけられているのか。

義務づけられていない。消費者庁の資料では、外食の事業者が販売する食品は特定原材料の表示義務の対象外で、自主的な情報提供が望ましいとされている。表示がなくても含まれていないとは限らない。これは法的な助言や診断ではない。

多言語メニューを費用をかけずに作る方法はあるのか。

東京都の2025年2月の案内では、都内の飲食店向けのEAT東京で、日本語のメニューを選んで12言語に翻訳するサービスを無料で使える。現在の利用条件はサイトで確認してほしい。

多言語対応に使える補助金はあるのか。

東京観光財団の令和8年度「インバウンド対応力強化支援事業補助金」では、都内の中小の飲食店で、多言語対応に係る事業は経費の3分の2以内、1店舗あたり上限300万円となっている。交付決定の前に購入や設置をしたものは対象外である。申請前に最新の手引きで確認を。

まとめ 言葉の壁は飲食店に残っている

多言語メニューが広がった背景には、2025年に過去最高の42,683,301人に達した訪日客と、その人たちが最も満足した飲食の2位にラーメンを挙げているという事実がある。一方で観光庁のアンケートでは、言葉が通じずに困った場所として飲食店が最も多く挙がり、困った人の割合はこの2年ほぼ横ばいである。2026年は訪日客の総数が前年を下回り、国・地域ごとの増減も分かれている。店の側は、表示を足すこと、口頭のやり取りを補うこと、食材の情報を伝えることを分けて考え、来店客の内訳を見ながら言語を見直したい。利用する側は、入口の表記や写真メニュー、QRコードの案内を入りやすさの手がかりにしつつ、食べられない食材は店に直接確かめるのが確実だ。

訪日客の増加と、店の側の変化

インバウンド需要と価格設定の関係、外国人の経営者やスタッフの増加、キャッシュレス対応、タブレット注文の広がりを扱った記事です。

出典

  • 日本政府観光局(JNTO)「2025年 国籍別/目的別 訪日外客数(確定値)」2026年8月19日付 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20260819_1615-6.pdf (確認日2026-10-11)
  • 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」2026年1月21日公表 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20260121_1615-1.pdf (確認日2026-10-11)
  • 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年8月推計値)」2026年9月16日公表 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20260916_1615-1.pdf (確認日2026-10-11)
  • 日本政府観光局(JNTO)「2026年 訪日外客数(総数)」2026年9月16日公表 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20260916_1615-4.pdf (確認日2026-10-11)
  • 観光庁「訪日外国人の消費動向 インバウンド消費動向調査結果及び分析 2025年 年次報告書」(調査ページは2026年10月9日更新) https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002020010.pdf (確認日2026-10-11)
  • 観光庁「令和7年度 訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート 調査結果 別紙」令和8年4月 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001998584.pdf (確認日2026-10-11)
  • 東京都・東京観光財団「都内飲食店舗対象 多言語メニュー作成支援ウェブサイト(EAT東京)のご案内」2025年2月 https://tcvb.or.jp/jp/news/R6_joho_eattokyo2.pdf (確認日2026-10-11)
  • 公益財団法人東京観光財団「インバウンド対応力強化支援事業補助金」令和8年度(申請の手引き 令和8年9月1日改訂の記載あり) https://www.tcvb.or.jp/jp/project/infra/welcome-foreigner/ (確認日2026-10-11)
  • 消費者庁「食品表示基準について」別添「アレルゲンを含む食品に関する表示」2023年4月14日付ファイル https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230414_01.pdf (確認日2026-10-11)
  • 消費者庁「食品の表示 知っておきたい」令和7年4月版 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/pamphlets/assets/food_labeling_cms201_250512_01.pdf (確認日2026-10-11)
  • 消費者庁「外食・中食での食物アレルギーについて」(パンフレットは令和8年7月) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/efforts (確認日2026-10-11)

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